奈落の底から響く声 第二章
ミサキから語られたのは、月影村に古くから伝わる恐ろしい伝承だった。
昔、月影村では、豊作を祈願するために、若い娘を生贄として奈落に捧げる風習があった。生贄に選ばれた娘は、美しい着物を身につけられ、村人たちに盛大に見送られながら奈落へと向かった。
しかし、奈落にたどり着いた娘は、二度と村に帰ってくることはなかった。娘たちは奈落の底で殺され、その魂は奈落に閉じ込められてしまったのだ。
村人たちは、生贄の風習が途絶えると、今度は自分たちの娘が奈落に連れて行かれるのではないかと恐れ、生贄の風習を続けることにした。
しかし、時代が変わり、生贄の風習は徐々に廃れていった。それでも、奈落に閉じ込められた娘たちの怨念は消えることなく、今も奈落の底で彷徨い続けているという。
ミサキの話を聞いたユウは、奈落の呪いがどれほど恐ろしいものなのかを改めて認識した。同時に、奈落の呪いを解き放ち、娘たちの魂を鎮めたいという気持ちが強くなった。
「何か方法はあるはずだ」
ユウはミサキに言った。
「奈落の呪いを解く方法を教えてください」
ミサキはしばらく考えた後、口を開いた。
「奈落の呪いを解くためには、過去の罪を償わなければなりません」
「過去の罪?」
ユウは聞き返した。
「はい。村人たちは、過去に生贄を捧げた罪を償わなければなりません」
ミサキは言った。
「そのためには、村人全員が過去の罪を認め、心から謝罪する必要があります」
ユウは村長に会い、奈落の呪いについて話した。村長はユウの話を聞くと、顔を青ざめた。
「やはり、奈落の呪いが…」
村長は呟いた。
村長は、過去の生贄の風習について知っていた。しかし、村の伝統を守るために、そのことを誰にも言わずにいたのだ。
ユウは村長に言った。
「村人たちに、過去の罪を償うように説得してください」
村長はしばらく迷った後、ユウの言葉を受け入れた。
村長は村人たちを集め、奈落の呪いについて話した。そして、過去の生贄の風習について謝罪した。
村人たちは、村長の言葉に衝撃を受けた。自分たちの先祖が、そのような恐ろしいことをしていたとは。
しかし、村長は続けた。
「過去の罪を償うためには、皆さんの協力が必要です」
村長は村人たちに、過去の罪を認め、心から謝罪するように訴えた。
村人たちはしばらく戸惑っていたが、やがて村長の言葉に耳を傾けるようになった。そして、一人、また一人と、過去の罪を認め、謝罪の言葉を口にした。
村人たちの心が一つになったとき、奈落の底から聞こえていた声が、静かになった。
ユウは奈落へと向かった。奈落の淵に立つと、もう何も聞こえなかった。ただ、静寂だけがそこにあった。
ユウは奈落の底に向かって、心から謝罪の言葉を述べた。
「過去の罪を償います。どうか、私たちのことを許してください」
ユウの言葉が奈落に響き渡ると、不思議なことが起こった。奈落の底から、光が溢れ出したのだ。
光は徐々に強くなり、やがて奈落全体を覆い隠した。そして、光が消えたとき、奈落の底には、美しい花畑が広がっていた。
花畑の中央には、小さな祠が立っていた。祠の中には、かつて生贄として捧げられた娘たちの名前が刻まれた石碑が納められていた。
ユウは祠に手を合わせた。娘たちの魂が、ようやく安らかに眠ることができるようになったのだと思った。
月影村には、再び平和が訪れた。村人たちは、過去の罪を忘れずに、互いを尊重し、助け合って生きていくことを誓った。
ユウはその後も月影村に住み続けた。そして、奈落の物語を、後世に語り継いでいくことを決意した。
奈落の底から響く声 第二章

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