悪夢の遊園地 第五章
それから数年後、アリスはすっかりこの街の住人になっていた。あの遊園地での出来事は、彼女の中で決して消えることのない強い記憶として残っていたが、同時に、それを乗り越えたからこそ得られた強さ、優しさ、そして勇気を胸に、彼女は日々を過ごしていた。
あの後、アリスは大学に進学し、心理学を専攻した。遊園地で出会った子供たちのこと、そして何より、自分自身の心の変化を通して、「人の心を救いたい」という強い思いが芽生えたからだ。大学を卒業したアリスは、街の小さなカウンセリングルームで働き始めた。
「おはようございます、アリスさん」
カウンセリングルームの扉を開けると、受付の女性が笑顔で迎えてくれた。アリスもまた、笑顔で応じる。
「おはようございます。今日は予約の方、いらっしゃいますか?」
「はい、午後に一人、新しい患者さんがいらっしゃいます。緊張されているみたいなので、優しく声をかけてあげてくださいね」
「わかりました」
アリスはカルテを受け取り、今日の予定を確認した。午後の患者は、最近引っ越してきたという少女だった。引っ越し先での生活に馴染めず、悩んでいるらしい。
(私も、この街に引っ越してきたばかりの頃は不安だったな…)
アリスは、少女の気持ちが痛いほどよくわかった。だからこそ、彼女の力になりたいと思った。
午後になり、少女がカウンセリングルームを訪れた。
「こんにちは。アリスです。どうぞ、中へ」
アリスは笑顔で少女を迎え入れた。少女は緊張した面持ちで部屋に入り、椅子に腰かけた。
「何か、困っていることはありますか?」
アリスは優しく尋ねた。少女はしばらくためらった後、ぽつりぽつりと話し始めた。
「引っ越してきたばかりで、まだ友達ができないんです。この街のこと、何も知らないし…」
少女の言葉に、アリスは静かに耳を傾けた。そして、自分の経験を交えながら、少女にアドバイスを送った。
「私も、この街に引っ越してきたばかりの頃は不安でした。でも、少しずつこの街のことを知って、優しい人たちと出会って、この街が好きになりました」
「だから、あなたもきっと大丈夫。焦らず、少しずつこの街のことを知っていけばいい。そして、あなたらしいペースで、新しい友達を見つければいい」
少女はアリスの言葉に、少し安心したようだった。
「ありがとうございます…」
少女は小さな声で言った。
「また、いつでも相談に来てくださいね」
アリスは笑顔で少女を見送った。
少女が帰った後、アリスはカルテに今日のカウンセリング内容を記録した。そして、ふと思った。
(あの時、遊園地で出会った子供たちも、今頃は元気で暮らしているだろうか…)
アリスは、遊園地で出会った子供たちのことを思い出した。彼らは皆、過去の悲しみを乗り越え、前向きに生きていた。
(私も、彼らと同じように、過去の経験を力に変えて、人々のために生きていきたい)
アリスは、改めてそう思った。
その日の夕方、アリスはカウンセリングルームを後にした。空には、美しい夕焼けが広がっていた。
アリスは、夕焼けを見上げながら、深呼吸をした。そして、未来への希望を胸に、街を歩き始めた。
(この街で、たくさんの人たちと出会い、そして、彼らの心を救いたい)
アリスは、そう願いながら、夕焼けの中を歩いていった。
第五章 完
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